コーヒーとレコードの美味しい関係。
名店カフェが厳選する、名盤とは?
自ら焙煎し、コーヒーを淹れる。針を落として、音楽を堪能する。デジタルの発展と共に、体験をする「コト」消費への需要が高まり、アナログ文化が再評価される昨今。コーヒータイムをこだわる人のなかでは、音楽はレコードで聴く人も増えているという。そこで、BGMをレコードにこだわる名店カフェの、イチオシのレコードをご紹介。3者3様、それぞれのお店が選んだレコードには、やはりそれぞれのこだわりがあった。
─ 西荻窪のロマンスミュージックカフェ。
ロマンスミュージックカフェという、なんとも不思議な名前がついた西荻窪にあるカフェJは、ジャズやワールドミュージックなど、シンプルな響きの音楽をレコードでかけくれるお店。ゆっくりと流れる音楽だけでなく、こだわりの内装や家具などが、メロディに浸れる静かな時間を作ってくれる。地よい音楽を聴いていると、コーヒーの味もさらに美味しく感じるものだが、〈あんトースト〉といった食事メニューも充実しているのも嬉しい限り。
こちらのお店が選んだレコードは、この3枚。
『The Trumpet Artistry of Chet Baker』Chet Baker
『Snuggled on Your Shoulder』Beverly Kenney
『Vol 3 Dance of Death』John Fahey
1995年発売の『The Trumpet Artistry of Chet Baker』は、歌のないトランペット演奏だけのシンプルなアルバム。“芸術”というタイトル通り、聴くものをシンプルに魅了する。2枚目は、60年に28歳という若さで自ら命を絶ったジャズシンガー、Beverly Kenneyのコレクターズアルバム『Snuggled On Your Shoulder』。デビュー前のデモ録音だけで構成された珠玉の1枚。『Vol 3 Dance of Death』は65年発表。ブルースからハワイアン、カントリーなどをミックスし、独自のバランスで昇華させた傑作ワールドミュージック。
お店のコンセプト通り、シンプルかつ心地よいセレクト。
─ 湘南・茅ヶ崎、住宅街にあるカフェ。
元レコード会社勤務のオーナーが、湘南・茅ヶ崎の住宅街に作ったカフェB。イメージは、ボストンにあるブックカフェ。60?70年代のポップロックを中心とした、約1万枚以上の所蔵レコードは圧巻でしかない。しかも自由に閲覧可能で、リクエストも可能と、音楽好きにとっては堪らない空間だ。コーヒー豆は名門〈カフェバッハ〉のものをセレクト。レコード同様、オーナーの強いこだわりが垣間見える
こちらのお店が選んだレコードは、この3枚。
『Liege & Lief』Fairport Convention
『Late for the Sky』Jackson Browne
『Keep on Pushing』The Impressions
69年発表の、ブリティッシュフォークバンドによる名盤『Liege & Lief』。シンプルで鋭い演奏とサンディ・デニーの歌声に聞き惚れる。『Late for the Sky』は74年発売。若かりしJackson Browneの若き日の代表作で、ウエストコーストを代表する1枚である。ラストは、Curtis Mayfieldがソロになる前に在籍していいたバンドによる、64年のアルバム『Keep on Pushing』。シカゴ・ソウルの名盤は、ぜひ聴くべき。
オーナーの趣味嗜好がつまったセレクトに、ただただ感服。
─ 世界の音楽が聴ける、京都の古民家カフェ。
4000枚以上のアナログレコードを取り揃える、古民家を改造して作れた京都のカフェHは、世界中の音楽を取り揃える。フォーク・ジャズ・ワールドミュージックなどジャンルも豊富だが、ポルトガル、ギリシャ、ルーマニア、タイ、ブラジル、キューバと、さまざまな国のレコードが取り揃えられている。コーヒーの味も、中深煎りのハイチ・キューバと、深煎りのブラジル・エチオピアと、こちらもまたまたボーダーレス。自家焙煎も豆も販売中だ。
こちらのお店が選んだレコードは、この3枚。
『Cracked Seed』The Sunday Manoah
『Night Vision』Bruce Cockburn
『Portland』Kevin Burke and Micheal O'Domhnaill
『Cracked Seed』は72年のアルバム。兄弟グループのによる、ウクレレの響きと伸びやかなヴォーカルがひたすら心地よい名盤。『Night Vision』はカナダ発73年のアルバム。ジャズやフォークなどがブレンドされた、都会的なサウンドが心地いい。『Portland』はアイルランドのフォークデュオによる82年の作品。疾走感がクセになる1枚。
やはり音楽のセレクトも、ボーダーレスでジャンルレス。
文/Genta Tanaka